2015年10月10日

晩夏の高湯遊び・安達屋と吾妻小富士

61火口から右に一切経山・左に東吾妻山s.jpg

2015年9月某日

私邸気分で愉しむ、貸切風呂の宿

 突然だが、自分に順番が回ってくるという意味で使われる“お鉢が回る”という諺の由来をご存知だろうか(笑)。ここで言う“お鉢”とは、飯櫃(めしびつ)のこと。大人数で食卓を囲んだ昔、飯をよそう順番がなかなか回ってこないことから生まれた言葉だ。
 季節はまもなく新米シーズン。頭を深く垂れる稲穂の景色に、そんなたわいのない会話を連れと交わしながら車を高湯へと走らせる。緑がまだ残る9月。紅葉シーズンまでしばし静けさを取り戻した吾妻の山里に、今回は福島の“飯櫃”ならぬ“すり鉢山”こと、「吾妻小富士」を訪ねる計画だ(笑)。
 温泉に近付くにつれ、図らずもまた自称、雨男の本領発揮(笑)。鈍色の空がどんよりと重さを増し、やがて車内に朗々と雨音が響き始めた…。不機嫌になる連れの傍らで、開き直りの笑いを押し隠す(笑)。

07安達屋ロビーs.jpg02安達屋お茶s.jpg06安達屋着物替え花浴衣s.jpg

05安達屋ロビーにてs.jpg11B安達屋貸切ひめさゆりs.jpg10安達屋男不動の湯s.jpg

 到着した「安達屋」で、傘を持って出迎えてくれた宿の方に「またお世話になります」と挨拶を交わし、強まる雨足に小走りで中へ。ここを訪れるのは2度目(詳細はこちらのブログを参照)。時の流れを一気に引き戻すランプの灯りもやさしい館内は、あの時と同じ、旧交をあたためる知人宅のよう。チェックインの後、囲炉裏の炭火に手をかざしながら、おもてなしの甘茶でまずは一服。ラウンジの一角に設けられた「花ゆかた」コーナー(レンタル料300円)では、母娘らしい先客が柄と帯の組み合わせで悩んでいる。「安達屋」は、懐かしさの延長にある非日常感の演出が巧みだ。
 案内された部屋は貸切露天風呂にも近い場所。この宿に泊まる醍醐味は、何といっても、その贅沢な風呂施設にある。館内には男女別の内湯の他に、名物の大露天風呂と貸切風呂が3ヶ所。もちろん、そのすべてが白濁した自慢の硫黄泉の源泉掛け流し。まずは、改装したばかりの貸切風呂「ひめさゆり」へ。
 シックな色合いで統一された風呂は、2人連れや、ちいさな子供のいる家族に丁度良いコンパクト感。内湯スタイルだが、開け放した窓の外には坪庭も見え、私邸気分を満喫できる佇まいだ。館内の貸切風呂は利用料も無料(!)。そのまま単身、はしご湯した男性用内湯「不動の湯」は、映画のセットを思わせるレトロな造りで私の密かなお気に入り。先客なしの独り占めも手伝い、雨の憂いも忘れどっぷりと楽しんでしまった(笑)。

12安達屋夕食s.jpg16安達屋夕食s.jpg15安達屋夕食s.jpg

14安達屋夕食s.jpg19安達屋夕食s.jpg21安達屋夕食s.jpg23安達屋露天洞窟風呂大気の湯s.jpg

五感が喜ぶ鄙の炉端膳

 今宵の料理は評判の「プレミアム囲炉裏焼きプラン」。車海老、蟹、帆立、岩魚、手羽、軍鶏つくね。季節の酒菜とともに、テーブルに所狭しと並ぶ豪華な食材に、こちらのテンションも最高潮。宿の料理コンセプトはズバリ“作りたて”。文字通り、目の前の囲炉裏で好みの炙り加減を、出来たてのアツアツで楽しむ演出が常連客の心を鷲掴みにしている。
 コースには「雪鱒とサーモン」のお造りや「温むき蕎麦」の凌ぎなどの後出し料理も付いている。林檎をまるごと器に仕立てた「林檎の釜焼き」は、インパクトある見た目と、具沢山の楽しい歯応えに宿の遊び心を感じるひと品。次々と繰り出されるサプライズと、手前焼きのアトラクションに、止まらぬ箸と、止まらぬ料理談義(笑)。ときに手づかみで豪快に、ときに丁寧な箸さばきで繊細に。所作の賑やかさでも楽しめる演出は、五感に届く、どこか懐かしくもある体験だ(笑)。
 叩きつける雨の中、夜半にあきらめきれずに向かった名物の大露天風呂「大気の湯」は、予想通りの貸切状態(笑)。穴蔵の洞窟風呂に陣取り、強まる雨足を見ながら大自然と一体になる野趣満点の湯浴みを堪能。「大気の湯」は夜9時までは女性専用。それ以降は混浴なのだが、さすがの荒天に最後まで誰ひとり来る気配すらなかった(笑)。

26A安達屋貸切通路s.jpg26B安達屋貸切二の湯s.jpg27安達屋朝食s.jpg

29安達屋露天風呂大気の湯s.jpg35安達屋男不動の湯s.jpg

46あったか湯貸切風呂s.jpg43あったか湯男風呂s.jpg40あったか湯女風呂s.jpg

ひと湯、ふた湯と、極楽三昧

 雨上がりの翌朝。予約をしていた貸切露天風呂「薬師の湯」の“二の湯”へ。以前、利用した“一の湯”(詳細はこちらのブログを参照)とまた趣き異なる風呂は、裏山を借景にした緑に抱かれた癒しの佇まい。昨夜の雨が用意してくれた心地よいぬる湯に肩までどっぷりと浸かれば、頬を撫でる風の冷たさが、忍び寄る秋の気配を教えてくれる。
 デザートのミニケーキまで完食(笑)した朝食後は、のんびりと部屋でひとやすみ。出発前に最後の風呂を楽しむことにした。
 爽やかな山気に覆われた「大気の湯」は、昨夜の大荒れが嘘のような穏やかな水絵画の世界。精気を増した緑が縁取る翡翠色の湯が、神々しいまでの光彩を放っている。深い山中に忽然と現れた幻の泉のようなその景色に、どぼんと身を預けるこの至福。これぞ贅沢、地上の極楽(笑)。夜とはまた異なる雰囲気の内湯も、一篇の物語のような佇まいだった。湯上りには、たっぷりと女湯を満喫した連れと合流し、「やっぱり、高湯はいいね」と意気投合。とはいえ、その優しげな表情と裏腹に、強い温泉成分を誇る高湯の湯。はしご湯もいいが、くれぐれも無理は禁物だ。
 「安達屋」の道向かいには、共同浴場「あったか湯」(大人250円)もある(詳細はこちらのブログを参照)。源泉から至近の場所に建つ風呂は温泉ガスが濃厚なため、施設は抜気ができる露天風呂のみ。館内には家族やカップルにちょうど良いサイズの貸切風呂も併設され(50分1000円・受付は前々日の朝から)、周辺観光のパンフレットの設置の他、情報についても気軽に教えてくれるため、高湯滞在の湯巡りはもとより、ドライブがてらの立ち寄りにもおすすめだ。

50浄土平ビジターセンターs.jpg51浄土平レストハウス昼食s.jpg54吾妻小富士登るs.jpg

57吾妻小富士火口s.jpg60火口を歩くs.jpg

65火口天辺から高山方面望s.jpg64火口天辺から山形側雲海を望s.jpg59火口から浄土平湿原s.jpg

69火口の花s.jpg70紅葉始まるs.jpg71帰路の風景s.jpg

超絶景、吾妻小富士の夢世界

 「浄土平は青空のようですよ」。曇天模様に、行先を躊躇していた私たちに届いた吉報。「あったか湯」の方が、わざわざ現地に確認してくださったらしい。丁寧に礼を申し上げ、すぐさま車に乗り込む。ところが走り始めて間もなく、空模様が怪しくなり、到着する頃には辺り一面真っ白な濃霧状態(笑)。それでも気まぐれな山の天気に一縷の望みをかけ、駐車場に車を停め、敷地内のビジターセンターで時間潰し。さらに、レストハウスで「エゴマ豚丼」(980円)と「かけそばセット ミニソースカツ丼付」(1,100円)の昼食をとりつつ、しばらく粘ってみることにした。
 腹ごしらえが終わる頃だろうか。辺りがみるみる視界を取り戻し、目の前にある「吾妻小富士」の稜線が次第に姿を現し始めた。焦る気持ちで早速、頂きへと続く登山道をひたすら登る。急勾配に、ぜいぜいと息をきらすこと約15分。頂上に到着!
 そこに広がっていたのは…まさに超絶景。大迫力の火口跡だった。小型の富士山を思わせる均整のとれた姿から、地元で“お釜”の名で親しまれている「吾妻小富士」は、約6000年前の噴火でできたとされる浄土平のシンボルだ。直径約500mの“すり鉢状”の火口に水はなく、周囲は火山帯の砂礫で形成された荒涼とした風景が広がっている。噴火口の高さは約70m。柵のない火口壁から絶壁に近い急斜面の下を覗けば、足元がすくむ怖さ。お釜の周囲は約1.5km。60分程で一周でき、遥か遠くの対面に火口壁を歩く豆つぶのような人影も見える。連れと相談の上、私たちは時計と反対回りを選択(後から知ったが、ビジターセンターでは歩きやすい時計回りを推奨)。
 火口壁からは噴煙を上げる「一切経山」をはじめ、浄土平が一望できる。精巧に造られたミニチュア世界のように、なだらかな畝を形成する緑の山々と、きらめく沼を抱いた樹海を見下ろす天空眺望は、まさにジブリアニメの世界。
 「火星に来たみたい」、そう笑う連れの言葉どおり、道幅も狭い火口壁は左右が崖であるのに加え、ところどころで巨大な噴石が行く手を阻み、滑りやすいスリリングな砂礫の道が続く。足元に注意を払いながら、時折、雲の切れ間に現れる景色を楽しみつつ歩くこと30分。標高1,707mの最高地点に到着。晴れていれば眺望は360度。眼下には遠く信夫山や福島市街も望めるらしい。やがて行程の3/4程過ぎた辺りで、湧き上がる雲の峰に完全に景色が奪われた。火口壁から噴火口へ這い降りる生き物のような雲を眺め、そこで留まること10分、いや15分だろうか。視界の回復を待ったが、それ以降、山が絶景を見せてくれることはなかった。
 高山植物のシーズンもピークを過ぎ、戻り道では咲き終わりのヤマハハコや、早くも色付き始めたナナカマドが季節の終わりと始まりを告げている。浄土平は紅葉の名所でもある。どうやらそう時をまたがずに、再び訪れることになりそうだ(笑)。土湯方面を抜けて帰る途中、名残を惜しむ私たちへの手土産のように、吾妻の自然が雲の隙間に福島市街の風景をプレゼントしてくれた。
 奇跡的にも念願が叶った、まさに一睡の夢のような「吾妻小富士」との出会い。それは頭で理解できる情動を遥かに超えた、不思議な感覚だった。季節はまもなく、燃えるような命の色彩に包まれる秋。高湯の湯に感じる圧倒的かつ神秘的な大自然エネルギーの根源を、ぜひ、あなたの目と心で確かめて欲しい。




■四季を彩るいこいの宿「安達屋」

〒960-2261 
福島県福島市町庭坂字高湯21
TEL/024-591-1155
http://www.adachiya.jp/

チェックイン 14:00  ・チェックアウト 〜11:00 
日帰り入浴/10:00〜13:00 700円

[入浴時間]
ご婦人内湯「姫の湯」
殿方内湯「不動の湯」
大露天風呂「大気の湯」(※18:00〜21:00は女性専用)
貸切露天風呂「薬師の湯」〈一の湯・二の湯〉(要予約)6:00〜24:00
貸切風呂「ひめさ湯り」(要予約)7:00〜21:00(※22:00〜6:00はフリー)
※貸切風呂は宿泊者は無料・1回につき50分利用

[温泉の利用形態]
天然温泉・源泉100%。完全放流式、加水なし、加温なし 
(※「薬師の湯」は季節により加熱水を給湯)

[アメニティ]
 大浴場と内湯/シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、ドライヤー等

[交通のご案内]
■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線〜県道5号線16km(約30分)
■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「高湯前」下車(約40分)

※福島駅西口まで送迎いたします(要予約)
【お迎え】午後3時/【お送り】午前11時



■高湯温泉・共同浴場「あったか湯」

〒960-2261 福島県福島市町庭坂字高湯25番地
TEL/024-591-1125
http://www.naf.co.jp/azumatakayu/attakayu/index.html

《営業時間・定休日》
9:00〜21:00(最終入館20:30)
毎週木曜定休(祝祭日の場合は翌日)
※営業時間や休館日は臨時変更あり

《ご利用料金》
大人(中学生以上) 250円(回数券・12回  2,500円)
小人(1歳以上) 120円(回数券・12回 1.200円)

《貸切風呂》
1グループにつき1,000円加算(50分)
※要予約・最終受付 19:00

〜貸切湯ご利用の仕方〜
人数分の入浴券の他に貸切料が1回1,000円かかります。 利用時間は受付で鍵を受け取り返却まで50分です。 予約は9時から19時までで、前々日朝より受付いたします。 定休日にご注意ください。(例えば土曜日の予約は木曜が清掃定休日のため金曜日からの予約となります)ご利用当日に使用不可となる場合がありますので、ご了承ください。 冬期は貸切湯が閉鎖となる場合もあります。(12月上旬〜4月上旬)男女湯温度の確保のために、貸切湯のお湯も投入いたします。

【泉 質】
 酸性・含硫黄(硫化水素型)
 −アルミニウム・カルシウム硫酸塩温泉(硫黄泉)
 (低張性−酸性−高温泉)

【源泉温度】51℃
【効 用】
 高血圧症、動脈硬化症、末梢循環障害、リウマチ、糖尿病、慢性中毒症、にきび、しも

やけ、やけど、切きず、婦人病、不妊症、水虫、あせも、胃腸病、神経痛、慢性湿疹、便

秘、脱肛、皮フ病、手足多汗症、アトピー性皮膚炎

[交通のご案内]

■東北自動車道
福島西I.Cから約30分
福島飯坂I.Cから約30分

■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「高湯温泉駅」下車(約40分)



■浄土平
磐梯朝日国立公園の吾妻連峰にある山岳景勝地。「日本の道100選」にも選ばれている観光道路、磐梯吾妻スカイライン(全長29km ※11〜3月は閉鎖)の途中に位置する湿地帯で、一切経山と吾妻小富士に挟まれ、辺りは噴火による火山礫に覆われている。夏の高山植物をはじめ秋の紅葉が素晴らしく、シーズンにはダイナミックな景観と可憐な植物の姿を求めた多くの人々で賑わう。自然探勝路の起点となっている標高約1,600m付近には駐車場(有料)も整備され、ビジターセンターの他、レストランや売店もあるレストハウスや天文台もある。

※浄土平周辺は風向きによって火山性ガスが滞留する場合があります。ビジターセンター等でも随時注意を呼びかけていますが、お出かけの際は事前確認を行ってください。

◎ビジターセンター
住所/福島市在庭坂字石方1-4 吾妻・浄土平自然情報センター内
TEL/024-591-3600
営業時間/9:00〜16:00 ※冬期休館
http://www.bes.or.jp/joudo/vc/

◎レストハウス
TEL/0242-64-2100 ※開館期間のみ
   《024-525-4080(福島県観光物産交流協会)》 
http://www.tif.ne.jp/soumu/zyodo.htm

◎浄土平天文台
住所/福島市土湯温泉町字鷲倉山浄土平地内
TEL/0242-64-2108 ※開館期間のみ
   《024-525-3722(福島市観光課)》 
開館時間/9:00〜16:00 ※冬期休館
休館日/月曜(祝日の場合はその日以降の平日)
入館料/無料
http://www14.plala.or.jp/jao/

↓ パンフレットはこちら
浄土平周辺MAP01.jpg浄土平周辺MAP02.jpg

浄土平施設案内01.jpg浄土平施設案内02.jpg

浄土平花ガイド01.jpg浄土平花ガイド02.jpg

■吾妻小富士
標高1707m。正式名称は「摺鉢山」。中央にある大きな火口が、麓の福島方面から見ると、秀麗な小型の富士山を思わせることから「吾妻小富士」の名で親しまれている名山。早春には“種まき兎”といわれる雪形が生じることでも知られる。浄土平の駐車場から火口壁までは階段状の登山道が続き、徒歩10分程度で登ることができるため、観光客やハイカーの人気スポットとなっている。火口壁は一周、約1時程度でまわることができる(噴火口の中へ下りることは禁止)。晴れていれば、浄土平や福島盆地を一望する眺望が楽しめる。

※足元が滑りやすい砂礫のため、浄土平ビジターセンターでは時計回りを推奨。
※火口壁の登山は歩き慣れたスニーカー、またはトレッキングシューズが必要。
※季節や天候により火口壁は強風のため、防寒具があると安心です。

■一切経山
吾妻小富士の北側に位置する標高1949mの活火山で、今なお噴煙を上げている。名前の由来は、一説では平安時代に陸奥を支配した奥州阿部氏の安倍貞任が仏教教典の一切経を山に埋めたという伝説に由来。低木しか育たないために眺めがよく、浄土平から気軽に山頂まで登山できるが、現在は火山ガスのため入山が規制されている。



posted by yusanjin at 16:15| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする