2012年06月11日

高湯温泉 旅館「玉子湯」

00 瀬音 浸かり目線s.jpg

2012年5月某日


眼福にひたる、朝逍遥

 ひとあし遅い高湯の新緑。光に透けるような鮮やかな緑が、スーラの点描画さながらに山肌を繊細なタッチで覆い尽くしている。いつになく早く目覚めた朝、爽快な気分で、まだ静まり返った温泉街へ連れと散歩に出かけることにした。湿気を帯びた山の空気と、時折、雲間から射し込む陽光が、朝の体に心地いい。傍らには源泉が合流する渓流が濛々と湯気を上げている。宿の人からすすめられた共同浴場「あったか湯」の少し先、高台にあるゴルフ場跡まで坂道を登ること約10分。そこには、息を呑む幽玄の世界が広がっていた。朝露を帯び、一層輝きを増した平原を、靄が生き物のようにゆらりと低く這ってゆく。その眼福に足元が濡れるのも忘れ、2人、子供のようにずんずんと、しばし草原歩きに興じる。遠く近く、セキレイの囀りが天高く響きわたっていた。
 一日のはじまりに思わぬ収穫を得、満足気分で宿をチェックアウト。やや怪しくなってきた雲行きを気にしながら、去り難さついでに「玉子湯」へ足を向ける。創業144年を誇る旅館「玉子湯」は、創業者の後藤与次兵衛(よじべえ)が“、この硫黄泉に浸かると肌がゆで玉子のようにつるつるになる”として源泉を玉子湯と名付け、明治元(1868)年、湯小屋を建て湯治場として開いたのが始まりとされる温泉宿だ。谷の斜面に建つ宿は意外に大きく近代的だった。広いロビーから見える山肌が、額縁に収まった一幅の絵画のように私たちを迎えてくれた。


05 ロビーs.jpg02 ゴルフ場 朝s.jpg01 あったか湯川s.jpg

11 湯の川幻想s.jpg13 湯小屋 桜1s.jpg12 湯小屋 夫婦s.jpg

14 湯小屋 男湯10s.jpg26 源泉 1s.jpg
 

雨の幻想桃源、玉子湯

 フロントで日帰り入浴の手続きを済ませ、早速、風呂へ。高湯のシンボル的存在として有名な湯舎は、ロビーのある4階からエレベーターで降りた1階にある。渓流沿いに広がる温泉庭園には鄙びた茅葺きの湯小屋が点在し、はしご湯が楽しめるようになっている。その佇まいはまるで昔話そのものだ。朝に見た渓流の下流にあたるのか、勢いよく流れる水は地上に降りた天の川のような、幻想的な白さをまとっていた。折しも降り出した春の霧雨。はらはらと舞う八重桜が織りなす詩情あふれる景色は、まるで中国の古物語、桃源郷のようだ。
 宿の風呂は全部で7つ。うち、5つがこの庭園内にある。中でも宿の屋号ともなった茅葺きの湯小屋「玉子湯」は、明治元年の創業時の姿のまま現在に至ると言う。すぐ脇には注連縄が架かる覆堂があり、自家源泉、玉子湯(高湯10番)が祀られていた。ここから湧き出す透明な湯が空気に触れ、あの白濁の色になるのだと言う。湯小屋「玉子湯」の風呂は男女それぞれ、ちいさな木造りだ。創建当時の名残で、脱衣場と浴槽は同じ空間にある。今日の湯加減は少し温めのようだ。レトロなランプの灯りに揺れる白い湯は、秘湯気分も満点。此処が温泉通にこよなく愛される所以が分かる気がする。


19 散策路 散策山s.jpg20 散策路 つつじs.jpg21 散策路 つつじアップs.jpg

23 散策路 川s.jpg24 散策路 ゴルフ場横s.jpg25 散策路 池松s.jpg 

 

 庭園には山の斜面に沿って伸びる散策路があり、頂きには温泉神社の鳥居も見える。好奇心も手伝い、湯上がりに2人で登ってみることにした。路の途中には季節の植物が配され、小さな三階滝など、変化に富んだ景色が楽しめるようになっている。ちょうど咲き初めのヤマツツジが鮮やかな朱色を添えていた。やや勾配のきつい斜面を5分程度登っただろうか。ほどなく温泉神社に到着。ここからは温泉庭園が一望できる。宿では神社に登らない客に代わり、願い事を書いた絵馬を奉納してくれるようだ。ささやかな希望がしたためられた絵馬を眺め、2人で参拝。
 空が明るさを増してきたのを頼りに、温泉神社へ続く道の分岐にあった“ 散歩道 ”コースへも足を伸ばしてみることにした。小川が流れる林間を縫うように歩いて辿り付いた先は、朝、2人で歩いたあのゴルフ場跡だった。途中にはアカマツを配した池などもあり、なかなか雰囲気もいい。この散歩コースは現在、更に整備中のようだ。次に訪れる楽しみがまたひとつ、広がった。


27 瀬音 玄関s.jpg28 瀬音 女湯s.jpg

32 天渓の湯 男湯s.jpg
33 天翔の湯 女湯1s.jpg34 足湯s.jpg

翡翠色に染まる、鄙の愉快露天

 再び庭園に戻り一息ついた後、次なる風呂へ。先ほどの湯小屋から少し道を下りた先にある「瀬音」は婦人専用の露天風呂だ。運よく、客が途切れたタイミングとあって、連れが“ 見学だけでも… ”と中から私を手招き。先程の湯小屋と異なり、山を借景にした露天風呂はまさに野趣満点。湯気を上げる白い川の向こうの翠嵐が大迫力でせまってくる。誰もいない鏡のような湯面に緑が映り込み、白濁の湯が翡翠色に染まっていた。残念がる私を苦笑する連れが、早々に追い払う。仕方なくひとり、「天渓の湯」へと向かう。
 ガレ場をイメージした大岩を積み上げた野天岩風呂「天渓の湯」と「天翔の湯」は、時間帯によって男女入れ替えとなるようだ。風呂は茅葺きの脱衣小屋の入り口で、右手と左手に分かれている。ゆったりとレイアウトされた解放感あふれる眺めは、あふれんばかりの緑と共鳴しあい、贅沢感もひとしお。湯船の上に屋根はなく、雨なら雨を、雪なら雪をそのまま楽しむ大胆な趣向らしい。まさしくこれぞ、高湯といった愉快さだろう。その豪快さを前にして、やや興奮ぎみに湯に遊び、体の芯まで緑を深呼吸する。私が利用した「天渓の湯」には温度の異なる湯船が2つ配されていた。
 隣り合う「天翔の湯」に連れが来たことを確かめ、人が居なくなったのを見計らい、こちらも見学。「天翔の湯」にはひと回り大きな湯船がひとつ。岩場の湯口からせせらぎの音色に重なるように、豊富ないで湯が湧き落ちていた。
 注意書きによれば“ 1回の入浴時間は10分以内 ”とある。高湯の湯ぢからを知っている私だけに、さすがにいつもの長湯とはゆかず、少々物足りないくらいで露天風呂を後にした。近くには2002年に完成した「足湯」もあり、宿のすべての風呂を楽しみ尽くした連れが、湯あたりも何のその、既に足を浸しながら「掛け流しの足湯なんて、贅沢ね」と満面の笑みで私を待っていた。


37 滝の湯 男湯s.jpg38 仙気の湯 女湯s.jpg

35 玉子湯資料室 2明治s.jpg36 玉子湯資料室 1s.jpg07 ロビーから新緑s.jpg


 もちろん宿には「滝の湯」と「仙気の湯」と言う名の内湯もある。「滝の湯」は、宿が引湯している源泉名、滝の湯( 高湯26番、共同浴場「あったか湯」にも給湯 ) ゆかりの湯。一方、「仙気の湯」は、その名のごとく湯気の濃度が濃く、硫黄の香りを身体いっぱいに感じられるこじんまりとした風呂で、貸切にも対応しているようだ。24時間入浴できる大浴場「滝の湯」には広い湯船とカランが設置され、シャワーやアメニティも完備されている。
 帰り際、コーヒーブレイクがてら館内に見つけた「玉子湯資料室」には、創業当時の貴重な写真や古い宿帳、高湯温泉にまつわる文献など、興味深い資料が展示されていた。聞けば旅館「玉子湯」の湯守は6代目とのことだ。硫黄泉の多くは時間とともに匂いが消えてしまう性質がある。そのため、硫黄の匂いの湯が楽しめるということは、それだけ源泉から湧き出たばかりの新鮮な温泉を提供している証だと言う。開業以来、旅館「玉子湯」が、変わらぬ玉子の匂いに包まれているのは、敷地内にある自噴の源泉による完全放流掛け流しゆえの湯の贅であり、代々に渡る湯守の情熱の継承なのだ。
 夏を告げるエゾハルゼミの季節もまもなく。旅情誘う玉子の香りに包まれながら、蝉しぐれが奏でる天授霊泉への大喝采に、耳を傾けて過ごしてみる。そんなひとときは、いかがだろうか。




■旅館「玉子湯」

〒960-2261
福島県福島市町庭坂字高湯7
TEL/024-591-1171

http://www.tamagoyu.net/

チェックイン 15:00  ・チェックアウト 〜10:00
日帰り入浴/10:00〜14:00(最終受付13:00) 700円
※定休日/水曜日

[入浴時間]
露天風呂と湯小屋「玉子湯」は6:00〜22:00
大浴場「滝の湯」と内湯「仙気の湯」は0:00〜24:00
 
[温泉の利用形態]
天然温泉・源泉100%。完全放流式、加水なし、加温なし
 
[アメニティ]
 大浴場と内湯/シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、ドライヤー等


[交通のご案内]

■東北自動車道
福島西I.Cから国道115号線〜県道5号線16km(約30分)

■福島交通路線バス
JR福島駅西口から「高湯温泉」行・「玉子湯前」下車(約40分)

※福島駅西口まで送迎いたします(要予約)
【お迎え】午後3時15分/【お送り】午前10時30分


↓ パンフレットはこちら
玉子湯パンフ 01表面.jpg 玉子湯パンフ 02中面.jpg

 
 
 
posted by yusanjin at 21:41| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする